名古屋高等裁判所 昭和43年(う)318号 判決 1968年9月05日
控訴人・被告人 寺田源一
弁護人 杉浦酉太郎
検察官 前田亮知
主文
原判決を破棄する。
本件を津地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人杉浦酉太郎名義の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用するが、その要旨は、原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。
論旨に対する判断を示すに先き立ち、職権をもつて調査するに、原判決は、判示三として、(被告人が)法定の除外事由がないのに拘らず、自動車損害賠償保障法に定める自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない前記車両(軽四輪貨物自動車-六・三重か・六六三五号)であることを知りながら運行の用に供した旨、自動車損害賠償保障法五条、八七条一号のいわゆる責任保険の契約の締結強制違反の罪に該当する事実を認定しているが、右の罪においては、自動車を運行の用に供した行為のみならず、その自動車について自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていなかつたという事実についても、被告人の自白のほかに、補強証拠の存在することを要するものと解するのが相当である。
しかるに、原判決の挙げている各証拠を仔細に調べても、右責任保険の契約が締結されていなかつたという事実については、被告人の自白たる被告人の原審公判廷における供述並びに同人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書が存在するのみであつて、右被告人の自白を補強するに足りる証拠は見当らない。(その他、原裁判所が取り調べたすべての証拠を検討しても、右の点に関する補強証拠は存在しない。)
そうすると、結局、原判決には被告人の自白のみで、原判示三の自動車損害賠償保障法違反の事実を認定した違法があるものといべく、右の違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、この点において破棄を免れない。
よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三七九条に則り、原判決を破棄するが、本件は、当裁判所において直ちに判決をするに適しないと認められるので、同法四〇〇条本文に従い、これを原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 村上悦雄 裁判官 西村哲夫)